492 子供達の夢を乗せて
僕が初めてメリーゴーラウンドに興味を持ったのは、今から10年程前、相方(水野)と新婚旅行でパリに来た時のことでした。
チュイルリー公園に面して立つそのホテルの窓からは、晩秋の美しい並木と、その向こうにそびえるエッフェル塔の姿を楽しむことができました。
それは、初めてこの地を訪れた者にとって、これ以上にないくらいパリらしい風景でした。
そして、その風景の中にあったもう1つのもの、それが、当時チュイルリー公園の隅にあったメリーゴーラウンドだったのです。
なおそれまでは、自分にとってメリーゴーラウンドは遠い存在であり、興味はありませんでしたが、なぜかその時は、不思議な魅力を感じました。
そのメリーゴーラウンドは、しばらくの間、使われていないのか、回転台の上には落ち葉が積もり、秋風の中で、どこか侘しい(わびしい)感すらありました。
そして、それがまた秋のパリの風景にピッタリで、何とも言えず良い雰囲気だったのです。
翌朝、通りを渡ってチュイルリー公園に入り、相方にメリーゴーラウンドの木馬に跨ってもらって、写真を撮ったことを覚えています。
そして数年後…。
何の因果かパリに住むようになり、この街には他にもたくさんの、そして魅力的なメリーゴーラウンドがあることを知りました。
市役所前の広場にあったり、街中に点在する公園の子供広場の脇にあったり。
また、エッフェル塔やサクレクール寺院など、観光名所のすぐそばにも、必ずと言っていいほど設置されています。
さらにパリに限らず、フランスの地方(田舎)に出かけた際にも、いろいろなところでメリーゴーラウンドを見かけました。
南仏アヴィニヨン(Avignon)の旧市街地、オペラ座前の広場にあったメリーゴーラウンドは、本当に楽しそうでした。
バカンスでフランス各地からこの町を訪れているたくさんの親子が、夏の日の夕方、ゆっくりと暮れゆく時間の中で、本当に幸せそうなひと時を過ごしていました。
また、大西洋に浮かぶイル ド レ(ile de Re)、サン マルタン ド レ(Saint Martin de Re)の町にあった小さなメリーゴーラウンドは、ちょっと寂しそうでした。
あと数日で今年も終わり…という雰囲気の中、大西洋からの潮風をまといながら、数人の子供を乗せてカタカタと回っていました。
なお、我が家に長女(凪さん)が生まれてからは、ますます身近な存在となったメリーゴーラウンド。
いままでは、少し離れたところから眺めるだけでしたが、現在は、凪さんを乗せたり、時には自分も一緒に乗ったり。
ところで、一口にメリーゴーラウンドと言っても、いろいろな形があります。
電飾がキラキラと輝くもの、心躍るような音楽を奏でながら回るもの、2階建ての豪華な造りのもの、木製の簡素な造りの古いものなど…。
ちなみに僕が好きなのは、パリのリュクサンブール公園にあるものと、シャン ド マルス公園にあるものの2つ。
いずれも簡素な造りであり、設置されてからすでに長い年月が経っていると思われる、木製のメリーゴーラウンドです。
子供達を乗せる木馬の鼻先やおしりの辺りは、何度も何度も撫でられて、すでにペンキが剥げてしまっています。
また馬車は、扉がガタガタしていたり、革張りの座席がヨレヨレになったりしています。
しかしそれこそが、長年に渡って子供達に愛されてきた証し…。
そこには、見る者をほのぼのとした気持ちにさせてくれるような、何かがあります。
また木馬や馬車にそっと手を触れてみると、何とも言えない温かさを感じます。
皆さまもパリにいらした時、是非これらのメリーゴーラウンドをご覧になってみてください。
子供達の夢を乗せて、いまも回り続けるパリのメリーゴーラウンド。
ほんわかとした、幸せな気持ちにさせられます。