491 どんな人が休めるの?
先日、当店のお客様から、以下のようなご質問をいただきました。
「パリのビジネスマンについて教えていただけませんでしょうか。
パリは長期休暇に入る人が多いようですが、そのことで旦那と話していて、旦那は「やるヤツはやっている。1か月も仕事をほっておいて休む訳がないじゃないか?」と言います。
どのような人が1か月も休めるのでしょうか?」
このご質問を拝読し、ご主人のお考えが、僕には良く解ります。
また、ご質問をくださった奥様のお気持ちも、十分に理解することができます。
僕も日本にいた頃には会社員でしたので、1年を通じてカレンダー通りの生活でした。
長いお休みと言えば、ゴールデンウィークとお盆、そして年末年始くらいでした。
そのため、フランスに来てバカンスの実情を知った時には、本当に驚きました。
もちろん日本にいた頃からバカンスという言葉は聞いたことがありましたが、「それは昔のこと。スピード社会、情報化社会と言われる現代において、1か月も会社を休むことなんてあり得ない…」と思っていたからです。
しかし、個人の価値観や習慣はもちろんのこと、自分が身を置く国や地域の常識や慣習も、国や地域が変われば必ずしもそうではないということを、フランスに来て、あらためて思い知らされました。
そして、先の「どのような人が1か月も休めるのでしょうか?」というご質問には、「普通の人々です。誰もが休むことができます」と、答えることになります。
なお、フランスのバカンスの実態は「有給休暇の長期取得」ですので、フランスの有給休暇の仕組みについて、お話したいと思います。
- 1年(12か月)は52週である。
- 従業員には1か月に2.5日の有給休暇が付与される。
- フランスの年次有給休暇日数は、12か月×2.5日=30日となる。
- 従業員は5月から10月までの間に、1回に最大で24日分の有給休暇を取得することができる(それ以上の日数を取得できる場合もある)。
- 取得しなかった有給休暇は、翌年度に持ち越すことができる。
なお、ここで注目していただきたいのは、年次有給休暇の日数です。
日本が一般に20日であるのに対して、フランスは30日になります。
また、5月から10月までの間に、ある程度まとめて有給休暇を取ることが認められている点も、バカンスを取り易くする要因になっています。
しかし、それ以上に決定的なのは、この国で働く人々の有給休暇の取得に対する意識であると言わざるを得ません。
少なくとも、僕の知るフランス人の中には、長期休暇を取ることに罪悪感や遠慮のようなものを持っている方は少ない(いない)ように思います。
また、長期休暇をお取りにならない方もいらっしゃるのですが、そういう方は1年を通じて、分散してお取りになるようです(復活祭のお休みに1週間、夏のバカンスに2週間、トゥッサンのお休みに1週間、クリスマス休暇に1週間…という具合)。
お話は変りますが、皆さまは「サマータイム」をご存知でしょうか。
サマータイムとは、夏の間、太陽の出ている時間帯を有効に活用することを目的として、国をあげて現行の時刻に1時間を加えた時間を採用する制度のこと。
なお、サマータイムで大切なのは「国をあげて…」というところ。
国全体で行われるからこそ、日常生活にも、各種の交通機関にも、会社の事業活動にも、大きな混乱が生じないということです。
そして、今日お話したフランスのバカンスも、どこかサマータイムに似ている点があるように思います。
国全体に「夏はバカンスの時期…」という慣習があるので、郵便局の営業時間が短くなっても、担当者が不在でお役所の手続きが遅れても、仕事上の取引先や担当者となかなか連絡がつかなくても…、あまり大きな混乱は生じないということのように思います。
フランスという国1つ、また、バカンスという話題1つとってみても、自分の持つ価値観や日本人としての常識を、あっさりとくつがえされてしまうような事が、まだまだあるように思います。