484 戻ってきた1ユーロ
凪さんと私は、毎週水曜日にプールに通っています。
これはベビースイミングのクラスで、近所の市民プールを借りて、リュド アクアという団体が運営しているものです。
毎週、リュド アクアのスタッフさんが5~6人、遊び道具の出し入れをしてくださったり、一緒にプールに入ってくださったりしています。
ところで、市民プールのロッカーは、鍵を閉める時に1ユーロ硬貨を入れる仕組みになっていて、使用後に鍵を開けると1ユーロ硬貨が戻ってきます。
そして凪さんは、プールから上がった後に、戻ってきたこの1ユーロを使って、私達の住むアパートの1階にあるパン屋さんで、ベニエ(砂糖がけのドーナツ)を買うのを楽しみにしています。
ところが先日、私はうっかり、ロッカーを開けた時にこの1ユーロを置いたまま帰って来てしまいました…。
そして、自宅近くまで戻って来てから…
「ベニエ、買う」
…という凪さんの一言を聞いて、ハッ!と気がついたのです。
「凪ちゃん、ごめん。ママ、プールのロッカーに1ユーロ置いてきちゃった!」
それを聞いて凪さんがとても悲しそうな顔をするので、急いでプールに戻ることにしました。
ところが、先ほど使ったロッカーはすでに使用中で、1ユーロはどこにも見当たりません…。
受付のおじさんに…
「ロッカーに1ユーロ置き忘れてしまったんですけど…」
…と伝えると…
「そりゃ、誰かが使ったんだね」
と、あっさり言われてしまいました(当然と言えば当然なのですが…)。
「凪ちゃん、ごめんね。1ユーロ、なくなっちゃった。ベニエ買えないけど、お家にある他のおやつでもいい?」
そんな話をしていると、リュド アクアのスタッフさんの中で一番ご年配のおじさん(もう、おじいさんに近い)が…
「どうしたの? 何かあったの?」
…と声をかけてくださいました。
そして私が事情を話すと、おじさんは手のひらの上に1ユーロ硬貨を乗せ、私達に差し出しました。
「これ、おじさんがさっきロッカールームで拾ったんだけど、これじゃないかな?」
と、おっしゃるのです。
私が戸惑っていると、おじさんは凪さんの手に、その1ユーロを持たせてくださいました。
私はお礼を言って、凪さんと一緒に喜びました。
そして無事に、ベニエを買うことができたのです。
本当は、おじさんは1ユーロを拾ったのではなく、私が騒いでいたのを見て、くださったのだと思います(おじさん、ありがとう!)。