372 今年の秋の締めくくり

飛行機は、着陸態勢に入った。
秋の日の夕方、まもなくシャルル ド ゴール空港へと着陸する飛行機の窓からは、穏やかに、そして幾重にも重なった、緑の丘の連なりが見えた。

以前、友人から、「着陸間際の飛行機の窓から、牧草地の中をとび跳ねるうさぎを見た」と聞いたことがあったので、窓ガラスに額を近づけてみた。
しかし今日は、その姿を見ることはできなかった。

空港からはロワシー バス(Roissy bus)に乗ってパリ市内まで行き、オペラ ガルニエの横で降りた。
そしてすぐに、95番の市バスへと乗り換えた。

すでに暗くなり始めているパリの街を、バスは唸りを上げて走った。

オペラ大通りを南へとくだり、リヴォリ通りを横切ると、ルーブル美術館の前に出た。
右手には、チュイルリー公園越しにオレンジ色に輝くエッフェル塔が見え、左手には、ルーブル美術館の入り口に立つガラスのピラミッドが見えた。

カルーゼル橋でセーヌ河を渡ったバスは、パリ左岸の細い路地へと入り込み、ほどなくレンヌ通りへと出た。
そして、サン ジェルマン デ プレの交差点近くでバスを降り、今日から3泊の予定で予約しているホテルへと、歩いて向かった。

マカロンで有名な菓子店の向いにあるそのホテルは、思いのほか小さく、そして静かだった。
通された部屋の中は暖房が効いていて、ほのかに暖かかった。

オーバーナイター(1~3泊程度の旅に使うバッグ)を椅子の上に置き、洗面台の前に立って、手を洗った。
東京の自宅にいる時にも、また、こうしてどこかの街に出かけた時にも、外から部屋に戻って来ると、手を洗うのがクセのようになっていた。

その後、必要最低限のものだけを持って、ホテルの部屋を出た。
そして、サン シュルピス教会(eglise Saint Sulpice)の前で左に折れ、サン シュルピス通りを東へと進んだ。
教会前の広場の木々はすでにその葉を落とし、すっかり秋も終盤という雰囲気だった。

オデオンまで歩いた後、小さな広場に面したビストロに入った。
この店は地元の人たちに人気があるらしく、店内はすでに満席に近かった。

お店の一番奥の小さなテーブルに通されると、壁に掲げられた黒板の中から、自家製のテリーヌと到着したばかりだというボジョレーヌーボーを、ポット リヨネ(pot lyonnais)で注文した。

少しクセのあるテリーヌの味と、華やかな香りのヌーボーの組み合わせは、予想していた以上に素晴らしかった。

そして、東京で賑やかに飲むヌーボーもいいけれど、少し肌寒いパリの街で、秋の香りとともに静かに飲むヌーボーもいい…と、彼女は思った。

ポット リヨネ(pot lyonnais)