363 知らなかったからこそ

時々、日本にお住まいの方から、お便りを頂戴します。
それは、「私もフランスに住んでみたい。どうやったらお2人のようにできますか?」というもの。
また、「何か特別な方法や、強力なコネがあったのですか?」とも…。

しかし私達は、フランスに住むためにはどんな方法があるのかを、詳しく知っているわけではありません。

恐らく、いくつかの方法があるのでしょうが、私達の場合には、フランスに会社(日本でいう有限会社)を作り、その事業主になるという方法を取りました。

何かコネがあったわけでも、知人がいたわけでもありません。
日本を発つ前に、パリにお住まいの方を何人かご紹介いただき、こちらに来てから、初めてその方々にお会いいただいたのです。

しかし、ないないづくしの私達…。
フランスに何の足がかりもなければ、会社を起こした経験もない。
また、ファッション関係の仕事は初めてだし、それどころかフランス語も話せない…。

そんな2人がある日突然パリにやって来て…

「フランスに会社を作って事業を始めたい」

…なんて言っても、止めてくださる方はいらしても、奨めてくださる方はいらっしゃいませんでした(ゼロでした)。

でも、それは当たり前のこと。
考えてもみてください。
ある日突然、あなたのところへ遠い国から知らない外国人が訪ねて来て…

「日本語も話せないし、お金もないけど、日本に会社を作って事業を始めたい」

…なんて相談されたら、何と答えてあげられましょう…。

しかし、結果的に、いま、こうしてパリにいる私達。
いまになって思うと、いくつか思うことがあります。

1つめは、たくさんの方々に、少しずつ助けていただいたこと。

偶然がいくつも重なったと言ってもいいのですが、その時々に出逢った方々から1つの情報をいただいたり、1言のご助言をいただいたり、1人の方をご紹介していただいたり…。
そして、その1つ1つがうまい具合に組み合わさって、結果的にいまの状況を作り出したという感じです。

2つめは、よく解っていなかったこと。

フランスに来て会社を作り、事業を始めるということがどれだけ大変なことなのか、当時の私達には解っていなかったからです。
しかし、いまになって思えば、もし、予めこの大変さが解っていたら、フランスに来ることもなかったと思います。

3つめは、フランスやパリが、特に好きではなかったこと。

パリに来る前に東京で知り合ったある方に、私達の考えを伝えた時のこと。
長年、フランスやフランス語に関わるお仕事をなさっているその方がおっしゃった1言は…

「あなた達が、唯一成功するとしたら、それは、フランスやパリが好きじゃないからね」

…とのこと。
「フランスが大好きで、パリに住みたくて…」とばかり考えていると、そのことだけが目的になってしまい、視野が狭くなってしまったり、大切な時の判断を誤ってしまったりする恐れがあるとのことでした。

なぜ、いまになって、こんなことを書いたのかと言うと…

昨日、相方(水野)とバスに乗っていた時のこと…。
私達がパリに来たばかりの頃によく来ていた場所を通りかかり、その風景を見ていた相方が、「あの頃は、ホントに大変だったね…」と、ポツリと言ったからです(涙)。

本当に大変だったな…、あの頃…。
でも、今でも、その大変さはあまり変わらないんですけどね…。