349 魂の行方
日本は、もうすぐお盆ですね。
いま頃は皆さまもご実家にお帰りになり、お墓参りをなさっている頃かも知れません。
僕も子供の頃、提灯を提げて夜道を歩き、お墓参りに行ったことを思い出します。
お盆とは、祖先や亡くなった人達が成仏できるようにと供養する日なわけですが、子供の頃の僕にとっては、楽しい催し物のようでもありました。
しかし、お墓の前に立っている間だけは、なぜか神妙な気持ちになったものです。
お盆と言えば、思い出すことが、もう1つ。
それは1983年にテレビで放映された「波の盆」というドラマです。
太平洋戦争を通してハワイの日系移民がたどった不遇な運命と、祖国日本が敵国となった複雑な心境とを描いたものでした。
当時、数か月後には高校を卒業し、ハワイの大学へと進むことを決めていた僕にとっては、「ハワイに関するドラマだから…」という程度の気持ちで見たのですが、その内容は強く心を打たれるものでした。
中でも、ハワイで行われているお盆のシーン。
亡くなった日系移民の魂を供養するために海に灯篭を流すと、それがみな、祖国日本に向かって流れていく(帰っていく)というもの…。
そして、卒業式の翌日に僕はハワイへと渡り、その後、何人かの日系移民の方々とも親しくなって、あのドラマに描かれていたようなことの一端を、少しだけ伺うこともできました。
それは、太陽の光が燦々と降り注ぐハワイの明るいイメージとは対照的に、僕にとってはちょっと切ない、ハワイに対するイメージに…。
異国の地に生きる人達のご苦労を感じさせるものでした。
そして、あれから二十数年…。
移民としてパリに生きる自分がいます。
もちろん、ハワイの日系移民の方々のご苦労とはまったく比べものになりませんが、あの方々から伺った切ない話を知りながら、いま自分がこうしてここにいることをちょっと不思議に思います。
ところで先日、パリに住んで数十年とおっしゃる男性と女性にそれぞれお会いした時、偶然にもお2人が同じことをおっしゃっていたのが印象的でした。
男性は…
「僕は、もうずっとフランスにいるよ。日本には帰らないし、もう帰る場所もないしね…」
また、女性は…
「このままずっとフランスにいます。子供達(3人)もすでにフランスで成人しているし、またフランスにいる方が気が楽だから…」
そうサラリッとおっしゃったお2人の言葉がとても心に残り、また、異国に生きる中で身につけた、強さのようなものを感じました。
でも、その反面、本当に寂しくないのかな…とも。
また、いつの日か亡くなったら、魂だけでも日本に帰るのだろうか…なんて…。
【移民】
労働に従事する目的で外国に移り住むこと。また、その人。
なお現在では、多く移住の語を用いる。