313 なにもなくて、いいところ
フランスでファッション関係の仕事にたずさわる人たちにとっては、今が1年で1番忙しい時期。
2月から3月にかけて、パリやニューヨークなどで秋冬物の展示会が開催されるため、その準備や出展などに追われるからです。
先日も、とある取引先にお邪魔して社長さんとお話をしていた時のこと。
「妻は今朝早くニューヨークから帰って来て、いま寝ているよ。挨拶できなくてごめんね」
また、現在はフランスの学校が春休み中なので、彼らのお子様もお休みのはずだけど…
「子供達には悪いけれど、今はおじいちゃん、おばあちゃんのところに行ってもらっている」
…とのことでした。
ただし、3月も下旬になれば仕事もひと段落するので、復活祭の休暇を楽しみに頑張っていらっしゃるそうです。
「復活祭のお休みは、何かご予定があるのですか?」
「ああ、毎年、南フランスにある小屋で過ごすんだ。アヴィニヨン(Avignon)からずっと奥に入った山の上に小屋があってね、そこで過ごすんだよ。それが、本当に素晴らしい所でね。山の上にあるから視界が開け、廻りには何~にも無いんだ。もともとは父親のものだったんだけど、彼が亡くなった後、僕が譲り受けた。また、昔はそこでヤギを飼っていたんだけど、その後しばらく放ってあったんだ。それを妻や子供達と少しずつ直して、ようやく使えるようにしたんだよ。でも、山の上だから電気は無くて、夜はキャンドルの明かりだけ。また、水は近くに湧いているものを使う。そして食べ物は、10キロほど離れた村に行けば、パンや野菜などを買うことができる。まるでハックルベリ フィンみたいな生活だろ? でもそこで、妻や子供達とゆっくりと過ごすのがいいんだよ」
ここ最近の忙しさでちょっと疲れた様子の彼でしたが、家族とともに過ごす休暇をとても楽しみにしているご様子。
きらきらした目で語る彼を見て、何だか嬉しくなりました。
そしてまた、国土は日本の1.5倍、人口は約半分というフランスの、贅沢な休暇の過ごし方を想像し、羨ましくも思いました。