285 挑戦者たち

先日、交通機関のストライキで電車のダイヤが大幅に乱れました…。

そんな朝の出来事。
始発駅から電車に乗る私は、いつもなら通勤時間帯でも必ず席に座ることができますが、この日は少し様子が違っていました。
いつもより少し早めに駅に着くと、私が普段乗っている電車よりも1つ前に出発する電車がホームに…。
電車の中はすでに混んでいて、「座れないかな…」と思いつつ、少し先の車両まで行ってみると、いくつか席が空いていました。

その1つに、「すいません」と声をかけつつ座ろうとしたら…

「ここ、次の駅で乗ってくる私の友人の分なんです」

…と柔らかい口調で言った女性。

一瞬、「何を言っているのだろう?」と思いましたが、彼女のあまりに堂々とした物言いに「あぁ…、そうでしたか…」と引き下がる私。
結局、少し離れたところに別の席を見つけ、そこに座ることに。

「しかし、これってやっぱり変だ。けれど、なんと言えばよかったんだろう…?」。
朝の通勤時間帯に、次の駅から乗ってくる友人の席を抑えておくなんて、聞いたことがありません。
しかも、ストライキでいつもより混んでいるというのに。
そしてその後も、私と同じようなやりとりをその女性と交わした人がたくさんいらっしゃったのです。

ところが、普段なら主張を欠かさないフランス人も、皆、すごすごと退散してしまいます。
しかも、比較的友好的な態度で…。
これまた信じられない…。

しかしその中に、「頭にくるな~!」とぶっきらぼうにつぶやいた男性が1人。
続いて、「信じられないわ!」と言ったのは50代と思しき女性。
さらに、「そのお友達はラッキーですね」と笑顔で言った男性。

「信じられないことだが、あの席は、次の駅まで空席のままで行くのだろう…」と誰もが思った次の瞬間、迫力のある、体格のいい女性が登場。
そして、先ほどまでと同じように、例の女性の声が繰り返されます。
皆、素知らぬ顔をしていても、ことの成り行きを気にしているはず…。

そして、挑戦者は言いました。

「この席は予約できない席なの。私、座るわよっ!」

まるでそれが合図であったかのように、電車は静かに走り始め…。
例の彼女は周りの乗客の同情を誘うように困った顔をしたり、ため息をついたり、理解できないといった表情で首を左右に振っています。
しかし、彼女に同情する人は1人もいなかったと思います。