236 優しい街に…
パリの街は美しい。
友達や家族が恋しいとき、些細なことで落ち込んだとき、パリの街の美しさに、私は何度も心をなぐさめられたことがある。
けれど、パリの街は、体に障害を持つ方にはあまり歩き易い街ではない。
道路の段差や歩道の造り、駅構内の階段の多さなど、問題はたくさんある。
私の仕事場になっている建物の中にも、車椅子での生活を余儀なくされたマダムがいらっしゃる。
週に2度ほど午後にお散歩をするらしく、時々その姿をお見掛けする。
しかし、この建物にはエレベーターがないので、小柄なムッシューがその度にマダムを抱きかかえ、急な階段を上り下りしなければならない。
それだけに、週に2度とは言っても大変なことなのだろう。
何かお手伝いができればと声をおかけしたこともあったが、未だにお役に立てたことはない。
そして、そのお姿を見る度に、ムッシューがいつまでもお元気で、お2人の散歩が続きますように…と祈る。
さてさて、そんなパリで暮らす障害を持つ方に、朗報が届いた。
フランス国鉄(SNCF)のモンパルナス駅に、障害を持つ方たちが、より快適に移動することができるようにと、いくつかの設備が設けられたのだ。
階段の手すりに電車の行き先を点字で表記したり、車椅子に乗ったままプラットホームに移動することができる乗降車口が設置されたり、目に障害を持つ方のために拡大文字を使った電光掲示板が取り付けられたりした。
日本では当たり前のようなこれらのことが、パリでは今までなされていなかったことに驚きつつ、新聞でこの記事を読んだ私は「ついにパリの街も動き出した」と喜んだ。
しかし、続く記事を読んでハッとした。
聴覚に障害を持つ方にとってはあまり大きな改善策が取られていないと言うのだ。
そして、障害という言葉に、どれだけ多くの意味が含まれているのかということを忘れていた自分を反省した。
今後、これらの設備はパリのあちらこちらの駅に取り付けられると言う。
せっかく踏み出したこの一歩、フランス国鉄(SNCF)に勤務する方たちがその認識を高くもち、トラブルの発生時にはいち早く対応し、設備が正しく機能してくれるといいのだけれど。