044 緑色のガイドブック
8月14日から19日までの6日間、南仏プロヴァンス(Provence)に出かけることを、アパートの大家さんに予めお伝えしておきました。
私達は大家さん宅のすぐ隣りに住んでおり、昼夜を問わず窓を開け放しているため、私達が連絡もせずに数日間留守にしたら、心配するに決まっているからです。
出発の日、私達が空っぽのスーツケースをゴロゴロと引きながら表通りに出たところで、後から大家さんの奥様、ナンシーさんが走っていらっしゃいました。
彼女の手には1冊の本。
手渡されたのは、フランスのタイヤメーカー、ミシュラン(Michelin)が発行しているガイドブックです。
ミシュランのガイドブックと言えば赤い表紙のレストラン ガイドが有名ですが、緑色のツーリスト ガイドというものもあります。
「これ、ちょっと古いけど、まだまだ使えるわよ」
…とナンシーさん。
恐らく、ご自身達が旅した時にお使いになったのでしょう、かなり使い込まれた雰囲気です。
「ボン ボヤージュ(Bon voyage:良い旅を)!」
…の一言に送られて出発です。
パリのリヨン駅(gare de Lyon)からマルセイユ(Marseille)行きのTGV(フランスの新幹線)に乗り、一路アヴィニヨン(Avignon)へと向かいます。
相方(水野)は、ほどなく得意のお昼寝タイム。
仕方がないので、僕はガイドブックをパラパラとめくります。
そして、一通り見終えたガイドブックの表紙をあらためて眺めながら、大家さんご夫妻のお心遣いをありがたく思うとともに、
「自分がミシュランのガイドブックを持って旅するようになるなんて…」
…と、何だか不思議に、そして嬉しく思うのでした。
ミシュランのガイドブックと言えば、旅する人の憧れ。
若い頃の僕なら、手にするだけでもドキドキしたものでした。
そして昨日、6日間の旅を終え、無事パリに戻りました。
早速、大家さんご夫妻に旅のご報告をするとともに、お借りしたガイドブックをお返ししました。
また、お土産はプロヴァンス特産のラベンダーのポプリ。
ありきたりのお土産でしたが、ビズ(bise:頬と頬を合わせてチュッとする挨拶)をして私達の無事を喜んでくださいました。