004 印象日の出 受難日誌4/8

Copyright:坂田 正次

1987年11月、パリのシテ島にあるフランス中央裁判所のアラン ソーレ予審判事は、朝日新聞社の取材に対し次のように答えました。

「ジャマンたちが日本に持ち込んだコローの絵を売りさばこうとしたのは、日本人のフジマガーリでしょう。ジャマンたちは、日本の3億3千万円強奪事件の犯人だそうですが、私が捜査を担当しているモネの印象日の出強奪事件にも関係していると思います」

予審判事が言ったのは、日本人でも間違えそうな名の藤曲(フジクマ)信一のことでした。
その少し前、赤坂の豊川稲荷の駐車場に残された札束の指紋からジャマンたちを割り出したのは「指紋の神様」とも言われた警視庁鑑識課の塚本宇兵氏の執念でした。

日本とフランスの捜査当局は同じ犯人たちを追っていたのです。
その捜査により、スミュール アン オーソワ市立美術館で盗難に遭ったコローの絵画5点は日本にあることが判明しました。
善意の第三者と呼ばれる何も知らない、藤曲信一を介してコレクターや美術館がコローの絵画を購入していたのでした。

【コロー Jean-Baptiste Camille Corot】

1796年、コローはパリに生まれ、母は女性用高級帽子店を経営し、父は衣服商を営んでいました。
パリの織物商の店員になりましたが美術への興味が強く、26歳のとき古典的風景画家のミシャロンのアトリエに入門し、画家への道を歩み始めています。

モネが影響を受けたのがこのコローです。
それはモネだけでなく、後の印象派の画家たちへも大きな影響を与えました。
コローの友人のディティユーは、コローは現代風景画の父であると評しました。

日本国内で売却されたコローの作品は、「ボド婦人の肖像」、「帽子をかぶった少年」、「夕暮れ」、「果樹園」、「スミュールの落日」の5点です。