008 ルノワールのセーヌ河1/3 ラ グルヌイエール
Copyright:坂田 正次
第1回の印象派展がパリで開催されたあと、8回までそれは続きます。
印象派絵画が世の中に定着するまでには、多少の時間が必要でした。
その間に写実主義の画家たちは年をとり、勢力的に衰えを見せ、印象派のほうは描写に磨きがかかり、双方の勢力が拮抗していったときが印象派の定着の時点と見ることができるかもしれません。
その印象派の1人で、日本でのファンの多いルノワールが描いたセーヌの水辺の絵画を紹介しておきましょう。
絵の題名は、ラ グルヌイエール。
それはカエルの棲家という意味で、パリに近いブージヴァル(Bougival)のセーヌ河の中のクロワシー島にあって、人々がよく集まる遊泳場です。
そこには、食事やダンスができるよう改装された船もありました。
当時のブージヴァルは、製材所、ドック、石切場などの産業活動による資本と、豊富な自然をバックとする行楽地とが共存していた印象派の画家達のお気に入りの場所でした。
ルノワールやモネが印象主義を形成しつつあるとき、2人はイーゼルを仲良く並べ、同じ場所を描いた作品を何枚も残しました。
そのうちの1枚がこの1869年作のラ グルヌイエールです。
パリとその近郊の人口もそう多くなくて、家庭からの雑排水の量もセーヌ河の自浄作用をなくしてしまうところまで行かない、まだ水泳をするのに十分な水質を保っていた19世紀後半の水泳場の水面と人々の姿を描いたルノワールの絵と、風景画を得意とするモネの絵とでは、以前の回で述べたように違いを見せています。
最後まで光の描写を追求したモネの絵は、あくまで風景としてのまとまりを追うように遠近感を重視して構成されているのに対して、ルノワールのほうは、人物の存在感を全面に出そうとするように画面を構成しています。
印象主義の定着した概念に、モネの提唱する「光の描写」がありますが、ラ グルヌイエールではルノワールとモネの2人がともにセーヌの水面に映る光を描写しようとする実験的な努力が伺えます。
しかし、ルノワールは風景画を離れ、モネの画法の明るい画面構成や光の効果を継承しながら肖像画や人物画へと移行し、ルノワールらしい画法を構築して行くのです。
ラ グルヌイエール ルノワール
ラ グルヌイエール モネ