011 カベルネソーヴィニヨンを

Copyright:モーセルヴェ 伊藤 歩

やっと長い冬が終わってようやく春が来たと思ったら、なんだか初夏まで香ってしまいそうですね。
そんな季節には、決まってロワールのさらりとした赤ワインが飲みたくなります。
そこで今回はアンジュー(Anjou)の赤ワインを選んでみました。

【ロワール、Anjouの赤ワイン】

アンジューはフランス最長のロワール河の左岸、アンジェ(Angers)の南東に位置する地区です。
白ワインの品種は前回紹介したシュナン ブラン(Chenin Blanc)、赤ワインはほとんどがカベルネ フラン(Cabernet Franc)種を使用して作られます。

カベルネ フラン種はボルドーでおなじみのカベルネ ソーヴィニヨン種の弟分にあたり、早熟で、暑さを嫌い冷涼な土壌を好む品種です。
ボルドーからもたらされたこの品種ですが、この地で単一で使用することによって他にはないロワールの赤ワインとしての個性を発揮します。
濃さはさまざまですが、カシス、ブラックベリーの熟した黒いフルーツの香りと、忘れてはならないポイント、ピーマンの香り、しっかりとした酸味とちょっと粉っぽいタンニンが特徴です。

アンジューのカベルネ フランはのど越し、品が良く、それなりに飲み応えもあって食を選ばない、そんな気立てのよさを愛していたのですが、カベルネ フランばかりがアンジューではないと思わせるワイン登場です。

【Anjou 2004 Domaine A&R Mosse】

ぶっ飛ぶほどにパワフルな白を作る彼らのアンジューの赤を「2004年なんて、さぞや涼しげなんでしょうね?」と何気に手にとった私。
そこで販売員がつぶやくのです…

「ああ、カベルネ ソーヴィニヨンですね」

…と。

「カベルネ フランではないのですか?」

…と何言っちゃってるのばりに聞き返すと、彼は断言して…

「普通はカベルネ フランですが、これはカベルネ ソーヴィニヨンなのです」

失礼しました。
知ったかぶりしてはダメねと帰路について早速テイスティング。

色は濃い目の青みがかった鮮やかな紫色、香りはカカオ、干しプルーン、ブルーベリー、カシスの黒いフルーツにアンジューらしい漢方薬、グローブやペッパーのピリピリ、苔、赤ピーマンの煮詰めた香り。
口に含めばとろりとしたブラックベリーの果実味に、ピンと柱になる酸、レグリスのひねた香りとがっちりしたミネラル、わさびのような爽快感も。
後味の酸味も心地よく、飲みあきせずにスルリと2杯目に手が伸びます。

全体的な黒さと骨太さはなるほどカベルネ ソーヴィニヨン、とはいえやはり香りのベースは私の知っているカベルネ フラン種を使用したアンジューの香り。
以前、あるバイヤーと話していたのですが、ブルゴーニュにはアルザスの品種を植えたとしてもやはり出来たワインはブルゴーニュの香りがするだろう、と。
このワインも然り、品種を超えて香ってくる土壌の個性がほかの地でコピーできないフランス ワインの魅力ではないでしょうか。
そして、そんな土壌を活かしきっている作り手に会うと、人もまた土壌を表現する媒体なんだなあ、と思うのです。
フランスの豊かな土壌に感謝。

料理との相性ですが、私は復活祭なこともあり、仔牛のカツレツとあわせてみました。
黄金色に揚がった衣のコクと上質の仔牛の旨みに、邪魔しない果実味と酸がなかなかの好相性。
和食ならば牛肉ごぼうがおすすめ。
アンジューの土っぽさが、ごぼうを引き立てます。
お試しあれ。