006 身のつまった飲み応え

Copyright:モーセルヴェ 伊藤 歩

あっという間に暑い夏がやって参りました。
こんなときはしゃっきりした白が美味しいのですが、そういえば白続きな気がして今回は赤です。
しかも、みんなが大好きブルゴーニュ!

【ブルゴーニュの赤ワイン】

ブルゴーニュはいわずもがな、ボルドーと並んでフランス ワインの二大産地として有名ですが、ボルドーに比べてかなり土壌が狭いことが特徴です。
北はディジョンから(シャブリを生産するヨンヌ県は含まない)南はリヨンまでソーヌ河にそった細長い生産地です。

使用品種は赤はピノ ノワール、白はシャルドネ。
単一品種で覚えやすいピノ ノワール100%のワインは、チェリーやフランボワーズの華やかな香りと柔らかいタンニンの繊細な口当たりが一般的な特徴ですが、いかんせんこのピノ ノワールという品種、最も土壌の影響を受けやすく、作られる場所によって味も濃さも変ってしまうのです。
それゆえブルゴーニュのピノ ノワールはニューワールドのほかの生産地でいくらテクニックを駆使してもコピー不可能といわれています。フランス万歳!

さて、この細長い土壌からスーパースターなワインを生産するコート ドール(Cote d'Or)の話をしましょう。
コート ドールをだいたい半分に分けて北がシャンペルタン、ロマネコンティ等の赤のスーパースターを生産するコート ド ニュイ(Cote de Nuit)、南側がムルソー、モンラッシュ等の極上白を中心に生産するコート ド ボーヌ(Cote de Beaune)。
コート ド ボーヌは白中心ですが、ポマール(Pommard)、ヴォルネイ(Volnay)等の上質の赤も生産されます。
しかし、コート ド ニュイで生産される赤に比べてやや色が薄く、つるりとした果実味がちょっと土の香りのような田舎くささが加わるのが特徴です。

さて、サヴィニー レ ボーヌ(Savigny les Beaune)ですが、コート ド ボーヌの北側に位置し、ボーヌ側とはいえなかなかしっかりした赤を生産する区画です。
ただし、生産者、年、区画によってかなり味が左右されるので、この3つの点をよく吟味してワイン選びをすることをおすすめいたします。

【Savigny les Beaune La Dominode 1999 Domaine Jado】

今回ご紹介するワインはSavigny les Beaune La Dominode 1999 Domaine Jadot。
Jadotはブルゴーニュ有数のネゴシアン(ワイン仲買人)の1つですが、自社畑も所有しており、この自社畑で出来たものがかなりの質の高さ。
各区画らしい味、香り、それとなく自分の造りを主張し、例年安定したものを生産するのはブルゴーニュでは至難の業。
自社畑でできたものと、そうでないものと、どう見分けるかといいますとエチケットの囲いの一番下の部分にDomaine Louis Jadotとあるものがそれ(何もなければ仲買したもの)。

肝心のお味ですが、色は鮮やかな赤紫色、あら、なかなか薄いじゃないの、と思って香りを嗅いでみるとこれぞピノのむっちりしたベリーの香り、黒胡椒のシャープな香りが突き刺さります。
口に含めばがっちりした果実味、うまみをしっかり支えるミネラル分、後味の最後まで長~くうまみは続きます。
「ボーヌの赤だからってなめるなよ」の土壌の声が聞こえてきそうなこのワイン。
1999年はブルゴーニュ大当たり年のため今飲むのがちょっともったいないかな、と思うほど身のつまった出来です。
お料理との組み合わせは骨付きの牛肉に、たっぷり粗挽き胡椒と塩をふって炭火でジュー!
豪快に切り分けるようなワイルドナシンプルな肉料理がばっちり。
ウズラをハーブにつけて、同様にパリパリに焼いても良さそうです。

ある日、このワインを丸一日キャラフにいれて放置したことがありました。
“もうダメになっちゃったかな”と恐る恐る飲んでみると、香り、旨味ともに爆発!
これまた「なめるなよ」の声を聞いた気がしました。
ブルゴーニュの土壌と誠実なワイン職人に感謝。