511 引っ越し騒動

先日、アパルトマンの大家さんから電話があり、「もうすぐアパルトマンの契約更新の時期だけど、次は更新しない…」とのお話がありました。
訳を伺うと、次はご自身がこの部屋に住みたいので、出て行って欲しいとのこと…。

思いがけない引っ越しを強いられて、正直途方に暮れましたが、仕方なく別のアパルトマンを探すことにしました。

ところが、ここパリで希望に合う物件を探すのは容易なことではありません。
東京の山手線の内側と同じくらいの広さしかないこの街に、200万人以上の人が住み、人口密度は1平方キロメートル当り約2万人と、東京の3倍以上の過密ぶりです。

それ故に、アパルトマン探しに際しては「少しでも良いアパルトマンを…」と願うのは誰しも同じこと。
そのため、良い物件の動きは驚くほど速く、なかなか「これは!」というアパルトマンを見つけることができないのです。

インターネットに掲載された貸し物件の広告を見て所有者や不動産屋さんに電話をしても、「すでに借り手が決まりました」と言われるのはもちろんのこと、先方の留守番電話に「アパルトマンを借りたいのですが…」とメッセージを残しても、返事の電話がかかってくる方が稀なくらい、いわゆる売り手市場なのです。

仕方なく、希望に合う物件の広告を見つけたら、身分証明書や納税証明書、銀行口座の証明書などを持って、直接、その不動産屋さんを訪ねることに。
運良く希望の物件が空いていれば部屋の中を見せてもらえることもありますし、残念ながらすでに借り手が決まっていても、同じような物件を、他にも持っている場合があるからです。

その一方で、所有者や不動産屋さんとの話がポンポンと進む場合にも注意が必要です。
そんな物件に限って、日当たりが極端に悪かったり、建物がかなり傷んでいたり、周りの環境が良くなかったりと、なかなか借り手が付かない残り物だったりするからです。

さらに私達日本人の感覚からすると、ちょっと受け入れがたい物件もあります。
部屋の形が複雑な多角形だったり(生活しづらそう…)、床が斜めになっていたり(目で見てはっきり判るほど…)、お風呂場やトイレがものすごく狭かったり(身体を斜めにしないと入れない…)。

また、所有者や不動産屋さんを訪ねた際に「昨年の納税証明書を見せてください」と言われることが多いのですが、それをちょっと見ただけで、「あなたには、このお部屋は貸せません!」とキッパリと断られることもあります(貸せませんどころか、見せてももらえないし、こちらの話も聞いてくれない…)。
要は、納税証明書から月収を計算し、希望する物件の家賃が月収の3分の1を少しでも越えている場合には、貸さないというのです。

そして、もう1つの悩みが保証のこと。
物件を借りるに際して、身元のしっかりした(要は、十分な収入のある)保証人を立てるか、そうでなければ、銀行保証をしなければならないことです。
銀行保証とは、毎月支払う家賃とは別に、予め銀行に家賃の1年分を預け入れ、それを引き出すことができないようにして保証金にすること。
ただでさえ引っ越しにお金がかかるのに、これは本当に大変です。

パリに暮らすフランス人でさえも、「アパルトマン探しは本当に大変…」と言うほどですが、外国人で妻子持ち、そのうえ自営業という僕にとっては、本当に頭の痛い騒動なのでした。