120 プロヴァンスの伝統刺繍

南仏、リル シュル ラ ソルグ(L'Isle sur la Sorgue)。
その町の小径の奥に、クルトゥポワント(Courtepointe)のアトリエはあります。

蚤の市が開かれる運河沿いの通りからは離れており、また、商店街からも少し外れた場所にあるため、見つけにくいかも知れません。

しかし、アトリエの前を通れば、その可愛らしい扉の中に入らずにはいられません。

ここは、南仏の伝統的な刺繍、ブティ(Boutis)の工房。
店内には手作りのアンティークのキルトや、店主のナディーヌさんがお作りになったブティの作品が所狭しと並べられています。

私が興味深く作品に見入っていると、奥で作業中だったナディーヌさんとご主人が、手を休めて来てくださいました。
そして、丁寧にブティの説明をしてくださったのです。

柔らかいライトに透かされて、美しい模様が浮かび上がる、白一色のブティ。
しかし、光の当たる加減によっては、微妙な陰影を作り出します。
その様子はまるで、布の彫刻…。

ナディーヌさんは、小さな針と布を手に持つと、その場で実演してくださいました。

まずは2枚の白い布を合わせ、鉛筆で写し取ったデザインの線に沿って細かく縫い合わせます。

続いて、糸状にした綿を太目の針に通し、それを縫い合わせた2枚の白い布の、綿を詰める部分に縫い込んでいきます。

そして、綿だけを2枚の白い布の間に残し(詰めて)、針だけを抜き取ります。

あとは、その作業を幾度となく繰りかえし、気の遠くなるような時間をかけて、大きな作品に仕上げていくのだそうです。

初めから中綿を挟んで縫っていくキルトに比べたら、ずっとずっと根気のいる仕事なのでしょう。

「ブティにかける長い長い時間と手間は、決して大変なことではなく、私の喜びなのよ」

…と話すナディーヌさん。

その穏やかで優しい笑顔は、この旅の、素敵なお土産になりました。