016 アントレ デ フルニスール

「ここは問屋さんですか…?」。
開店当初、ほとんどのお客さんが恐る恐るお店のドアを開けながら、そう訪ねたそうです。
それもそのはず、お店の名前である「アントレ デ フルニスール」とは、「業者さん用の入り口」という意味。
また、マレ地区にある賑やかな通りから少しだけ入った広場の奥に、そのお店はひっそりと建っていたからです。

店内の様子
店内の様子。手芸好きにはたまらない夢の世界が広がっています。

【歴史】

1993年にこのお店を始めたパトリック(Patrick)さんとリザ(Lisa)さん。
当時は、「こんな感じのお店」はパリにはなかったそうです。

「こんな感じのお店」とは、たくさんのボタンやリボンなどを取り揃え、たった1個(たった50cm)からでも買うことが出来るお店のこと。
このお店を始める前は、ボタンやリボンの問屋さんに勤めていたパトリックさん。
また、リザさんはインダストリアル デザイナーとして活躍していたそうです。

しかし、時代の流れとともに次々と小さなボタン屋さんが姿を消して行く中、知人の反対を押し切りながらも、このお店、アントレ デ フルニスールを始めたのだとか。

「お店を始めた頃は本当に大変だったのよ。ボタンやリボンにはたくさんの種類があるし、お店を始めるにはある程度の種類も数も揃えなければならないし。そう、たくさんの在庫を抱えなければならなかったのよ。それでいて、1個、2個売れても儲けはごく僅か…。しかも、ちょうど長男が生まれた時だったので、その子をカゴに入れ、いつも傍らに置きながら朝から晩まで働いたわ…」。

昔のことを懐かしむように語るリザさんと、その話を聞きながら当時の苦労を思い出している様子のパトリックさん。
いまでこそパリでも人気の手芸屋さんになりましたが、今日までの道のりは、険しいものであった様です。

お店の外観
夏には壁にはうツタが青々とした葉をつけます。

パトリックさんとリザさん
オーナーのパトリックさんとリザさんご夫妻。

リザさん
リザさんご自身がデザインをしたボタンも並んでいます。

【店舗】

パリの4区。賑やかなマレ地区の中心がフラン ブルジョワ通り。
アントレ デ フルニスールはその通りから少しだけ入った広場の奥に、ひっそりと建っています。
建物の構造上、通りからは見えにくく、ほとんどの人はお店の前を通り過ぎてしまうでしょう…。

こんなに奥まった目立たない場所にお店を構え、そして1個数ユーロ(当時はフラン)という安い品物をバラ売りするなんて…。
知人の誰もが反対したのはそのためだったのです。

でも当のお2人にとっては、この目立たない、ひっそりとした空間が気に入ったのだとか。
どこか秘密めいたような、この静かな空間こそ、彼らが持つイメージにピッタリだったのだそうです。
そして理想のお店を実現すべく、インダストリアル デザイナーだったリザさんが、店内のレイアウトをはじめ商品を並べる棚までもすべてデザインし、造ってしまったのだとか。

●店名
アントレ デ フルニスール(ENTREE DES FOURNISSEURS)

●所在地
8 rue des Francs Bourgeois 75003 Paris

ボタンやリボンを並べる棚
ボタンやリボンを並べる棚もオリジナル。
引き出しの取っ手はカラフルなボタンがモチーフになっています。

店内
対面販売が基本。
リボンやボタンは店員さんに希望を伝えて取っていただきます。
店員さんはパタンナーやデザイナーなどのお仕事と兼業で二束のわらじをはいている人が多いのだとか。

店内
リザさんの作品はマリクレール イデーやエル デコラシオンなどのインテリア雑誌に頻繁に取り上げられています。

【商品】

アントレ デ フルニスールを訪れて驚くのは、ボタンやリボンの種類の多さ。パリのモンマルトルにある大きな手芸用品店と比べても、圧倒的な品揃えなのです。

また、彼らは単にボタンやリボンなどを売るのではなく、それを買ってくださるお客様が、さらに手を加えることで初めて形になる素材を売るのがコンセプト。
そのために、お客さんと一緒になって考えながら、たった1個のボタンを選んでもらうのだそうです。

「私達の仕事はお客様からの質問攻めにあうこと。お客様の質問に、1日中、答え続けることなのよ。こんな形のボタンはないかとか、もっと大きなものが欲しいとか、違う色のボタンも見せてとか…。そしてあれこれと悩んだ挙句に、ようやく1個のボタンを買ってもらえるの。でも、日々のお客様からの質問の中にこそ、次のムーブメントが隠されている。私達はそうすることで、お客様から学ばせてもらっているのよ」。

そして、そのムーブメントに応えるために、新しい仕入先や新しい商品を常に探し続け、それを怠らないこと。
本当に地道なことだけど、それを繰り返すことにより、今日のような素晴らしい品揃えにすることが出来たのだそうです。

ボタン
ボタンはアジアやヨーロッパ各地からも取り寄せているそうですが、やはり大半はフランスのものだそうです。

刺繍糸
刺繍糸1つとっても取り揃えている色、並べ方にセンスの良さを感じます。

型紙
バッグや子供服などの型紙、クロスステッチの刺繍キットなども見本とともに並んでいます。