001 印象日の出 受難日誌1/8

Copyright:坂田 正次

このコラムは、パリのセーヌ河と東京の隅田川の環境問題や河川軸を中心とする都市再開発などの相互啓発をしながら友好関係を築くことを目的に活動している「セーヌ河友好協会」からの寄稿です。
執筆は坂田正次が担当しています。
最初のテーマは、セーヌ河に関係の深い印象派絵画のお話です。

【1985年(昭和60年)10月27日】

10月27日の日曜日、パリ マルモッタン美術館が開館した直後の午前10時10分にその事件は起きました。
絵画強盗が侵入したのです。
マルモッタン美術館は16区の閑静な高級住宅街にあり、印象派絵画を集めたコンパクトではあるけれども、見応えのある美術館です。
元はケレルマン侯爵の邸宅で、美術史家で絵画の収集家でもあったポール マルモッタン氏がそれを買い取り、マルモッタン氏の没後フランス アカデミーに寄贈されたことを受けて1934年に創設されました。

その後も、マダム ド モンシーが所有していた「印象日の出」など約20点の寄贈、モネの息子ミシェルの約80点のモネの作品の寄贈などがあり、印象派絵画の収蔵品が充実しています。
現在の名称はマルモッタン モネ美術館(Musee Marmottan Monet)です。

その美術館に3人の銃を所持した強盗が押し入り、入場切符を買った上で入場していた仲間2~3人とで、入場客と警備員を床に伏せさせ、その後、警備員などの美術館職員は小部屋に閉じこめて、地下1階に展示しているモネの代表作の「印象日の出」や1階にあったルノワール、モリゾなどの作品合計9点を額ごと盗み出し、警察が来る前に車2台で逃走したのでした。
警備員に銃を突きつけてから逃走まで5分足らずの組織的犯行でした。

その1年前の1984年10月17日、ディジョンに近いスミュール アン オクソワの市立美術館に所蔵してあったコローの絵画も夜中に忍び込んだ賊による盗難にあっています。
同一犯によるものでした。
この2つの事件は当時バブルで金余りのときを謳歌していた日本に飛び火するという予想外の展開を見せることになるのです。